鳥居をくぐった。
その瞬間、霧吹きで
水をかけられた様に顔が濡れた。
空は晴天。
雨が降っている気配はない。
セミの奴にやられたか。
いや季節外れだ。
それに奴らは、きっと目標めがけ
一点集中、元気一杯、一直線。
こんな風に汚物を撒き散らしたりは
しないだろう。
また気分が沈む。
神社に行くといつもこうだ。
季節外れのセミに狙われ汚物を
かけられてしまう。
神に拒絶された様な気分になる。
心は強く求めているのに、
段々と足は遠のく。
ブラウン管の中では有名な
スピリチュアルカウンセラーが
微笑みを浮かべていた。
『神社で突然の霧雨』
それは神に祝福されている証拠。
神はそれを知らせる為に霧雨を
降らせているのです。
神のご加護を受けている。
そう、貴女の守護神は天照大神。
セミの汚物は、もしや霧雨?
私は神に祝福されている?
そうか、やはりそうだったのか。
この私が神に拒絶される筈がない。
そう言えば高校の時の担任、
オーラが見える新庄先生にも
『あなたのオーラは綺麗』と
言われていたっけ。
放課後の校庭で、銃の早撃ちの
練習をしていた新庄先生。
CIAに命を狙われていると
怯えていた新庄先生。
今も元気にしているかな?
そうか、そうか、やはりそうか。
私は神に祝福されている
特別な存在だったのだ。
あぁ神様、疑ったりしてゴメンナサイ。
お賽銭を盗んでゴメンナサイ。
おみくじをゴミ箱に捨ててゴメンナサイ。
良い子になります。改心します。
そんな私は大殺界。 イエイ!
引越しの時、大事にしていたノートパソコンが壊れてしまった。
理由は全く解らないが、なぜだか電源が入らない。
左右に振ってみたり、パンパンと叩いてみたり、
色々とやってはみたが、どう頑張ってみたところで一向に直る気配はない。
もはや電気屋に修理を頼むしかないのか?
いや、それは出来ない。
もしこのパソコンの中身を他人に見られたら恥ずかしくて、
この先 生きてはいけない。それは、エロビデオをデッキに
噛まれて修理に出して、電気屋にそのエロの一部始終を
見られてしまうのと同じ位、恥ずかしい。
「あんなもの」や「こんなもの」が、このパソコンには一杯なのだ。
これを見た電気屋は、きっとニヤニヤするに違いない。
そして色々と想像されてしまったりするのだ。
やはり修理に出すのはよそう。
そうなると、あとはもう自作のデスクトップしかない。
しかしこのデスクトップ、とても分厚いディスプレイで、
机の大部分を占めてしまう存在感あふれる代物だ。
当然、型式は古く、使い勝手は極めて悪い。
今時、こんな古式ゆかしきパソコンを使っている人間なんて
いるのだろうか?などと考えてしまう。乙女の憧れる
「洗練されたスタイリッシュな生活」からは ほど遠い。
さてどうするか。勇気を振り絞ってノートパソコンを修理に出すか。
それとも、このまま我慢して分厚いデスクトップを使い続けるか…
乙女よ、今が思案のしどころだ。
子供の頃 給食が大好きだった。
『こりゃ美味い』とムシャムシャ食べた。
しかし他の子供達は『マズイ!食えたものではない』と
見向きもしない。
何故だ?私の食レベルが 他の子供達に比べて
著しく低いというのか?そんな筈はない。
うちのママンの料理は、うちのママンの料理は……。
私は、他の子供達の様に『給食は食べる物がない』
などと言い、断腸の思いで 大好きな給食を残すハイソな
子供になった。
そして大人になった今
『給食って、美味しかったよね。また食べたいわ』などと 皆が言う。
騙された!本当は皆が給食大好きっ子だったのだ。
子供のクセにいらぬ見栄など張りおって。この恥知らずめが!
私は祈った。この恥知らず達に罰をお与えください。
しかし、人の事ばかり言ってもいられない。
私にも思い当たる事はある。
ある時、友人に『朝ごはん 何だった?』と聞かれた。
私は『ハムエッグ』と答えた。しかし本当は、
ハムの『ハ』の字も入っていない、卵を焼いただけの
誰が何と言おうと正真正銘、完全無欠の【ただの目玉焼き】だったのだ。
見栄を張ってしまった。
あの時、とても悪い子になってしまった様な気がして
心の底から後悔した。
そして この先、どんな事があっても見栄を張る様な
下劣な人間にはなるまい。と、かたく心に誓ったものだ。
あれから十年余。
自分で言うのも おこがましいが 誰もが認める 実直な大人になった。
決して目玉焼きを ハムエッグなどと偽る様な 愚かな人間ではない。
えっ?今日の朝ごはん?
パンとコーヒーと…
ベーコンエッグ
あぁぁ
死んでしまいたい…
蛙の面に水
(かえるのつらにみず)
蛙の面に水をかけても、蛙は一向に驚かない。
世の中には かなり手厳しく皮肉られ忠告を受けたとしても
平気な顔をしている図々しい輩がいる。
そんな輩を例える時に良く使われている ことわざが これである。
僕は太郎、30歳。
職には就かず、悠々自適の毎日を過ごしている。
自宅にある【子供部屋】にいつも僕は居る。
ここは僕のパラダイスだ。
ある時、そんな青春謳歌 真っ只中の僕に向かって
『働かざるもの食うべからず』と母さんが言った。
気にはしていない。いつもの事だ。
僕は将来、世に出るべき人間だ。今は充電期間、
僕にとっては とても大事な時期なんだ。
母さんは凡人だから何も解っていない。
そんな凡人の母さんに僕は言ってやったんだ。
『働いたら負けだと思っている』と。
この様子を見ていた妹の花子が
『お兄ちゃんに何言っても無駄よ。【蛙の面に水】だわ』と言って
深いため息をついた。
酷い息子ですね。
『親の心子知らず』とは この事ですね。
でもそんな太郎くんが、いつの日か就職活動を始めた時…
その時はお赤飯を炊いて 家族でお祝いしてあげましょう。
では次回は
【果報は寝て待て】について学習します。
鼻歌まじりに走っていると 少し先の方で道路工事をしていた。
『こんな深夜におつかれ様』と、優しい気持ちで
ゆっくりとスピードを落とし近づいていくと、交通誘導員の男が
何ともヤル気なさげに誘導ライトを振っていた。
私は目を凝らして その男を凝視した。
だらしなく伸びた髪に うつろな目、そして無精ヒゲ…
タイプじゃない!
その瞬間、今までの優しい気持ちはフッ飛んだ。
『この男、成敗つかまつる』
暗がりの中、そっと車の窓を開け 気付かれぬ様
鼻クソを丸めて その男の方へ【ピッ】と飛ばした。
『してやったり』
打ち震えるような喜びが全身をかけぬけた。
勧善懲悪とはこの事だ。閻魔さまでも かなうまい。
南無阿弥陀仏、テルアビブ
ぶんぶく茶釜は良い茶釜
ぶぶ漬け一杯 召し上がれ
完全に良い気分になった私は、次のターゲットを探すべく、
鼻歌まじりに車を発進させた。
【“深夜のドライブ”の続きを読む】












